姿勢とは絶対的に使用するものであり坐位,立位に関しては重力に対して抗する姿勢となるため筋による制御が必要となります.姿勢は前後,左右に崩れがみられ,その姿勢に応じて過剰使用の筋,過小使用の筋など筋のインバランスがうまれます.
言い換えると姿勢を診ることで筋の状態を評価することも可能です.今回は質量中心,足圧中心から姿勢を評価していきます.
質量中心,足圧中心から姿勢の評価
重力下で姿勢を保持する場合必ず関節モーメントが働きます.この関節モーメントとは関節に対して回転させる力の大きさを表します.
臨床的に関節モーメントは「現在考慮する関節から上部にある質量中心位置が,水平面上その関節からどの程度離れているか」を評価します.
上部の質量中心が離れれば離れるほど関節モーメントは大きくなり,それを制御するためには大きな筋による制御が必要となります.
足関節で考えていくと足関節の上部,すなわち下腿部,大腿部,骨盤から上肢全体の質量中心は前方に位置しているため背屈モーメントが働きます.そのため姿勢を制御するためには筋による底屈モーメントが要求され下腿三頭筋の筋活動が必要となります.
膝関節でみても上部の質量中心が前方に位置しているため伸展モーメントが働くので,屈曲モーメントであるハムストリングスによる制御が必要となります.
股関節でも同様に上部の質量中心が前方に位置しており屈曲モーメントが働くので,伸展モーメントである大殿筋による制御が必要となります.
上部関節の質量中心が前後あるいは左右にズレが生じていた場合,同じ姿勢を毎日取り続ければ筋の過剰使用がうまれます.
また上部関節の質量中心だけでなく足関節モーメントは,身体重心の支持基底面の投影点(足圧中心)と足関節距離からも判定できます.
つまり足圧中心が前足部であればあるほど,足関節背屈モーメントが大きく働くため足関節底屈筋の下腿三頭筋による制御が必要となります.
逆に足圧中心が後足部であれば足関節底屈モーメントが働き,前脛骨筋による制御が必要になります.
上記のように上部関節の質量中心や足圧中心から姿勢をいくつか評価してみます.例えば,骨盤後傾している症例では,
まず股関節をみていくと,股関節の上部の上肢,体幹の上半身質量中心が股関節より後方に位置しているため,股関節伸展モーメントが働いていると考えられ,それを制御するため股関節屈筋の腸腰筋などが制御していると推察できます.
また足関節をみていくと,足圧中心が後方位に位置しているため底屈モーメントが働き,それを制御するため背屈筋である前脛骨筋等で制御していると推察されます.
今度は骨盤が前傾位している症例では,
股関節でみていくと上半身質中心は前方位となることが多く伸展筋である大殿筋等による制御が必要となります.足圧中心は前方位に位置しているため下腿三頭筋による制御が必要と推察されます.
今度は骨盤前方偏位している症例では,
骨盤前方偏位した場合,上半身質量中心は後方移動するため股関節では腸腰筋による制御が必要となります.上半身質量中心が後方偏位すると下半身質量中心が帳尻を合わせるように下半身質量中心は前方偏位するため足圧中心が前方位となる場合が多いです.足圧中心が前方位にあるため下腿三頭筋による制御が必要となります.
逆に骨盤後方偏位している症例では,
骨盤後方偏位した場合,上半身質量中心は前方移動するため股関節では大殿筋による制御が必要となります.また下半身質量中心は後方移動し足圧中心が後方位となることが多く前脛骨筋による制御が必要となります.
このように質量中心,足圧中心を評価することで制御している筋を推察することができます.言い換えると筋緊張から姿勢を予測することも可能です.
例えば前脛骨筋の過緊張が見られる場合は,足圧中心が後方位にある可能性があります.また大腿四頭筋の過緊張の場合は上半身質量中心が後方位にある可能性があります.あくまで仮説ではありますが筋緊張の状態,姿勢と双方評価すると全体像が見えてくるのではないでしょうか.
ちなみに上半身質量中心と下半身質量中心の関係についてはこちらをご参考にしてください.
質量中心,足圧中心からスクワット動作の評価
スクワットは,数ある運動のなかでも使用される頻度が多いのではないでしょうか.スクワットの仕方からクライアントの姿勢の制御方法が推察することが可能です.また筋力を強化したい部位によってスクワット姿勢を変化させる必要があります.
先ほどの質量中心,足圧中心の考え方からスクワットをみていきます.
骨盤を前傾させ体幹を前傾させることで上半身質量中心前方位,足圧中心前方位となり,大殿筋,下腿三頭筋に対して筋力強化を図ることができます.
逆に骨盤を後傾させ体幹を後傾させることで上半身質量中心後方位,足圧中心後方位となり,大腿四頭筋,前脛骨筋に対して筋力強化を図ることができます.
骨盤,体幹を後傾させ,膝関節を足関節より前方移動させることで上半身質量中心後方位,足圧中心前方位となり,大腿四頭筋,下腿三頭筋に対して筋力強化を図ることができます.
骨盤,体幹を前傾させ,膝関節が足関節より後方に位置させることで上半身質量中心前方位,足圧中心後方位となり,大殿筋,前脛骨筋に対して筋力強化を図ることができます.
まとめ
質量中心と足圧中心から筋緊張を評価することができます.言い換えると姿勢を改善しないといくら筋をほぐしても筋緊張は改善しない可能性があります.また,運動療法でも姿勢に応じて筋力強化する部位は変わるため目的に応じて姿勢を変える必要があります.
例えば,木の板を利用して前足部のみを乗せた状態でスクワットする場合と,後足部のみを乗せた状態でスクワットする場合では足圧中心が変化するため筋活動が変わります.環境を変えるだけでも運動制御に変化を与えることができます.
運動質量中心,足圧中心の視点で評価,治療を考えてみてはいかがですか.