触診の技術を向上することで治療,評価技術の精度を上げることができます.触診方法については以前記事にした,「触診技術の向上が治療,評価の精度をあげていく」をご参照ください.今回は大腿筋膜張筋の触診方法をご紹介いたします
触診前に知ろう ~大腿筋膜張筋とは~
大腿筋膜張筋,中殿筋,大殿筋は骨盤の側方に位置しており,骨盤の側方に対する制御として作用します.骨盤に対して前方を走行する筋が大腿筋膜張筋,中央を中殿筋,後方を走行する筋が大殿筋となります.
3方向で筋の走行が分かれていることで歩行立脚周期中,どの相でも筋による骨盤に対する側方制御が可能となります.IC~LRでは大殿筋,Mstでは中殿筋,Tstでは大腿筋膜張筋による制御が図れ歩行の安定性に寄与しています.また3筋は各層でタイミングよく筋活動を切り替えることが可能であり,筋の収縮効率のよい身体構造となっています.
また3筋は骨盤に付着しているため,骨盤の前後傾の角度による筋活動の変化が見られます.骨盤前傾位での外転運動では大殿筋の筋活動が高まります.
逆に骨盤後傾位での外転運動は大腿筋膜張筋の活動が高まります.
理由としては骨盤の前傾位では上半身質量中心が前方位に位置するため,体幹屈曲へのモーメントが発生しそれを制御するため大殿筋の筋活動が高まります.骨盤後傾位ではその逆で,上半身質量中心が後方位となるため,体幹伸展のモーメントが発生しそれを制御するため大腿筋膜張筋の筋活動が高まります.
そのため外転運動でのトレーニングでも骨盤のアライメントを考慮して実施する必要があります.例えば,背臥位で実施する場合はPSIS付近に丸めたタオルを置き骨盤を前傾位に誘導させた状態で外転運動することでより大殿筋を働かせることができます.逆に仙骨部付近に置き後傾位に誘導することで大腿筋膜張筋の活動が高まります.
また,骨盤後傾位を呈している歩行での筋活動をみても大腿筋膜張筋の活動が高くなります.大腿筋膜張筋の緊張が高いからマッサージ等利用してほぐしたとしても,骨盤のアライメントを変えないと元に戻ってしまうかもしれません.
あるいは,股関節屈曲拘縮のクライアントでも筋電図を図った場合,大殿筋の筋活動が他の中殿筋,大腿筋膜張筋に比べ優位に高いことがわかっています.
また,骨盤が前後傾どちらかに偏位しているクライアントは歩行中適切なタイミングで筋活動させることが難しく,常に過剰収縮を起こしており筋の収縮効率が悪くなっています.そのため筋疲労,筋緊張亢進から疼痛,易疲労性へと結びついてくることがあります.
大腿筋膜張筋
起始…上前腸骨棘 停止…腸脛靭帯を介して脛骨の外側顆の前面の粗面
筋連結…中殿筋,縫工筋,腸骨筋,大殿筋,外側広筋
触診方法
大腿筋膜張筋の前縁部の触診
① 上前腸骨棘から前下端から2横指尾方の部位を触知します.
② 膝蓋骨の近位縁の高さで,大腿部の前後径の中央部の腸脛靭帯を触知します.
③ ①と②を結び想定線を描き想定線に沿って触察していきます.
(大腿筋膜張筋の前縁は上前腸骨棘から脛骨の外側顆までの距離の近位1/3の部位付近で腸脛靭帯に移行します.)
注意:起始部は大腿筋膜張筋と縫工筋との間にくぼみを触知し鑑別する必要があります.強く圧迫しすぎると中殿筋と取り間違えやすいため軽く圧迫します.
大腿筋膜張筋後縁部の触診
① 上前腸骨棘の前下端から2横指後頭方を触知します.
② 大転子の前遠位端を触知します.
③ ①と②を結び想定線を描き想定線に沿って触診していきます.
注意:深層に位置する中殿筋と間違いやすく,中殿筋は大転子に向かい,大腿筋膜張筋は大転子の前方を通過するため走行に注意が必要です.大腿筋膜張筋の後縁は,上前腸骨棘から脛骨の外側顆までの距離の近位1/4の部位付近で腸脛靭帯に移行します.
まとめ
大腿筋膜張筋は過緊張となりやすい部位であり,触診頻度も多いと思われます.ぜひ試してみてください.また「棘下筋」,「小胸筋」,「肩甲挙筋」「棘上筋」,「梨状筋」,「縫工筋」の触診方法も記事にしてあるので併せて読んでみてください.
ちなみに今回の知識は体表解剖学研究会のセミナーや骨格筋の形と触察法をもとに記載しています.骨格筋の形と触察法は上記のような骨指標,想定線が記載されており,触診するためには欠かせない本となっています.また献体を用いて筋の位置等の解剖の知識も得ることができます.興味がある方は購入してみてください.