私たちセラピストはクライアントに触れることが多々あります.しかし普段治療中に意識して触っているでしょうか?なぜそこに触れているのかと問われたときに明確に解答することができますか?
今回は触覚刺激がもたらす影響について考えていきます.
主動作筋を触り,拮抗筋には触れない理由
収縮を促したい筋に対して,どのように意識させて収縮を促しますか?
収縮を促したい筋に対してタッピングをする方も多いのではないでしょうか.触れるという行為はその部位に対して意識させ筋を促通することが可能です.
2人ペアになり抵抗運動を実施します.一人が肩関節を90°程度屈曲してもらいます.もう片方の人が相手の挙上している側の三角筋前部線維を触れながら,もう一方の手で屈曲に対して抵抗運動を実施します.今度は広背筋を触れながら屈曲に対して抵抗運動した場合抵抗をかけられた側は先ほどとどちらが力が入るでしょうか.
集中しないとなかなわかりにくいと思いますが,三角筋前部線維を触れながらの方が力が入るのではないでしょうか.
主動作筋を触れた場合筋は促通され,拮抗筋を触れた場合拮抗筋に対して促通されるため相反抑制がかかり主動作筋は抑制されます.PNFのパターンは複雑な動きをしますが,必ず主動作筋を触れ,拮抗筋には触れないようにします.
パターンを使用しなくても肘関節屈曲の抵抗運動をする場合,主動作筋である上腕二頭筋を促通するため触り,逆に拮抗筋である上腕三頭筋には触れないように実施していきます.
抵抗運動ひとつとっても触れる部位一つで治療効果は変わってきますので意識してみてください.
触り方,触る強さで筋の状態,感情は変化する
クライアントに触れるという行為はさまざまな種類があります.握る,つかむ,くすぐる,タッピング,つねるなど言語化できないものを含めると数知れないですね.
触り方によってクライアントの感情は大きく左右されます.例えば指先だけを使ってつかむ場合がありますが,われわれはあまり触りたくない物に触らなければならないときに指先だけでつまんだり,つついたりするようにして触ります.
そのため指先で「点」で触られた場合,物として扱われた感じや,尊厳を傷つけられて不快な思いを抱くことがあります.
それに対して手のひらの広い「面積」で触る場合があります.手のひらは精神状態により発汗しやすい部位であり,心が反映される部位です.そのため手のひらで触ることは人に対して心で触っていると感じられます.
触れるという行為は相手の心に侵入することであり不用意に触れられると相手は驚いたり,不快に感じたりするため,触れる場合は声をかけることも大切になってきます.
また,どの身体部位に触れるかも重要です.一般的に触れられるのに慣れている部位をパブリックゾーンと呼ばれ肩,背中,腕になります.まず私たちセラピストの触り方をクライアントに認識させるためにパブリックゾーンを触れて慣れてもらうことも大切になってきます.
触る強さによっても変わります,強く触った場合筋緊張の亢進がみられ,優しく触った場合筋緊張が下がりリラクゼーション効果がみられます.
PNFではLumbrical grip(虫様筋握り)を強く推奨しています.安定性があり,心地よくそして痛みを誘発せずに運動をコントロールすることができる触り方です.
痛みの緩和とオキシトシンの分泌
治療をするとき「手あて」をするといいますね.手を当てる,触れるという行為はその行為で痛みを緩和させることができます.お腹が痛いとき,人は自然とお腹に手を当て痛みを緩和させます.
疼痛緩和のメカニズムとしてゲートコントロール説が関与しているとされています.触ることで伝達速度の速い秒速約75mの太いAβ繊維を刺激し,その信号がゲートを閉じる役割を果たし,鋭い痛み(秒速20m)を脳に伝えるのを防いでくれていると言われています.
ゲートコントロール説では,触れることによって痛みに対する不安や恐怖の感情が低下することで,ゲートが閉じます.このように痛みは単なる生理的なメカニズによって生じる感覚ではなく,心理的にも大きな影響を受けている複雑な現象であると言えます.
また触れるという行為はストレスの緩和にも貢献します.ある実験ではストレス下では励ますより,触れることのほうがストレスに関わる脳の活動が弱まりオキシトシンの分泌が促進するといわれています.また親密な関係ほど分泌が多く心理的ストレスも軽減されるそうです.
ある研究ではラットへの触れ方とオキシトシンの分泌量について検討しており,触れてすぐには分泌されず5分程度触れるとオキシトシンの分泌されるとのことです.
それ故,親子や夫婦でも絆を深めたい時は少なくても5分以上の触れ合いをすることが大切ですね.
まとめ
触るという行為は,普通信頼関係が得られた人に対してしか行わない行為です.他人である私たちセラピストはそのことを頭に入れておく必要があり,触り方一つで不快感を与えかねない,逆に触り方一つで信頼関係を築くことも可能だと思います.
また治療効果を考えていく上でも触り方,触る部位,触る頻度,触る時間を細かく考えていくことが必要ではないでしょうか.ぜひ参考にしてみてください.
内容の一部は「セラピストの動きの基本」を参考にしています.こちらもぜひご一読してみてください.