PNFはスタビリティの向上を目的とする手技や,協調性を促す手技,ストレッチに利用する手技など様々な場面で用いることが可能です.
今回は筋の出力向上を目的に利用するダイナミックリバーサルを紹介します.
ダイナミックリバーサル
ダイナミックリバーサルとは一側の求心性収縮の後に,反対側の求心性収縮を与えるものです.つまり動筋と拮抗筋に対して交互に徒手抵抗を加え動筋,拮抗筋の相互に求心性収縮を促すことで筋出力向上を図る手技です.
多くのクライアントは動筋と拮抗筋の筋インバランスが起こっています.背筋群に対しての腹筋群,大腿四頭筋に対してのハムストリングス,前脛骨筋に対しての下腿三頭筋など.
ダイナミックリバーサルでは動筋と拮抗筋を交互に素早く筋収縮を促すことで,弱い筋が強い筋に般化され筋の出力を引き上げます.
動筋と拮抗筋に対して交互に抵抗を加える手技としてご紹介した「スタビライジングリバーサル」はその場で静止性収縮にて保持することで安定性向上を目的にした手技です.
逆にダイナミックリバーサルは動筋,拮抗筋に対して相互に素早く求心性収縮を行うため,関節運動が伴い筋出力の向上を目的にした手技であり,目的に応じて使い分ける必要があります.
ダイナミックリバーサルは関節運動を伴うためClosed kinetic chain(CKC)よりもOpen kinetic chain(OKC)で利用することが多くあります.
ダイナミックリバーサルの実際
ダイナミックリバーサルを実際に利用すると
① 拮抗する強い筋から抵抗を加え,クライアントは抵抗方向に求心性の運動をしていきます.
② ①での筋収縮を途切れることなく今度は治療ターゲットとなる動筋の弱い筋へ抵抗を加え,クライアントは抵抗方向に求心性の運動をしていきます.
③ ①,②を交互に途切れることなく抵抗を加え繰り返していきます.
例えば肩関節挙上で三角筋が弱いと想定したダイナミックリバーサルを実施すると
①拮抗する強い伸展筋に対して抵抗を加えていきクライアントは求心性収縮にて伸展運動していきます.
②その後ターゲットとなる動筋の三角筋に対して抵抗を加えていきクライアントは求心性収縮にて屈曲運動していきます.
③ ①,②を繰り返し途切れなく抵抗を加えていきます.
ポイントとしては,動筋と拮抗筋の運動間の切り替え時に収縮を途切れさせないことです.収縮を緩めることなく動筋と拮抗筋を瞬時に切り替え求心性収縮にて関節運動をしていくことが大切です.
セラピストは動筋と拮抗筋に対して抵抗を加えていきますが,その都度コンタクトを変えて抵抗を加えていくため,クライアントは反応しやすく収縮を促しやすい手技となっています.慣れてくると触れたと同時に筋反応が起こり促通されます.
最初は,抵抗を加える際にどの方向に抵抗を加えるか,声掛けをすることでクライアントは理解しやすく筋活動を促しやすいです.また反応が良くなってきたら徐々に声掛けを無くして感覚情報を減らし触覚刺激のみで対応するなど難易度を変化させることも必要です.
また,体幹の腹筋群,背筋群のダイナミックリバーサルを利用する場合は,
①坐位でセラピストは胸部に手を置き体幹前傾に対して抵抗を加え,腹筋群の求心性収縮を促します.
②筋収縮を途切れることなく背部に手を置き体幹伸展に対して抵抗を加え,背筋群の求心性収縮を促します.
③ ①,②を途切れることなく交互に繰り返し求心性収縮を促していきます.
屈曲-伸展だけでなく,体幹の回旋運動も加えながら屈曲-伸展のダイナミックリバーサルを実施することで,腹斜筋群の筋出力向上につなげることも可能です.
まとめ
どの関節でもどの運動方向でも利用できるため,ダイナミックリバーサルは使用頻度の高い手技となっています.
また今回はパターンを利用しないものを紹介しましたが,ダイナミックリバーサルはパターンで利用されることも多い手技となっています.パターンと手技を組み合わせることで,さらなる筋出力の向上が見込まれます.
動筋と拮抗筋に対して交互に収縮を促す手技はダイナミックリバーサルやスタビライジングリバーサルだけでなく,リズミックスタビライゼーションがあります.それぞれ目的に応じて使いわけていきます.今度ご紹介させていただきます.