高齢者のおよそ6割以上が主疾患に関係なくどこかしらに関節可動域制限を有しています.そのため私たちセラピストも関節可動域に対して治療することが多くあります.しかしただストレッチをしても可動域が拡がらないだけでなく,疼痛を誘発することさえあり治療効果が期待できない方が多くいます.
今回は関節可動域拡大,リラクゼーションを目的としたPNF手技で,特に筋緊張を有しているクライアントに対して治療効果が期待できる二つの手技(ホールドリラックス,コントラクトリラックス)をご紹介致します.
ホールドリラックス,コントラクトリラックスとは
ホールドリラックス,コントラクトリラックスとは筋のリラクゼーションあるいは可動域を拡大させたい時に使用します.どちらも筋の収縮後の弛緩を利用するため一度クライアントに収縮を促し,その後筋の弛緩しているタイミングでストレッチを加え可動域拡大を図る手技です.
身体は筋の収縮後,神経により抑制がかかり筋の弛緩を誘発します.そのため神経的側面のある筋緊張に対して効果的で改善を図りやすい手技となります.
ホールドリラックスとコントラクトリラックスの違いは能動的か受動的かの違いにあります.ホールドリラックスの場合は能動的に等尺性収縮を行います.自己にて収縮強度を調整することができます.一方コントラクトリラックスは,受動的にセラピストの抵抗量に対して等張性にて筋収縮を行います.そのためセラピストの抵抗量に依存する形になります.
ホールドリラックスは自己にて調整が可能であるため疼痛があるクライアントに対してはホールドリラックスを用いて疼痛のない範囲で自己にて収縮を促すことが可能であり,疼痛による恐怖心が強いクライアントに対応可能な手技になります.
逆にコントラクトリラックスはセラピスト側で調整することが可能であり,クライアント自身による抑制を防ぎ,より強い収縮を促すことも可能であり,その分弛緩を誘発しやすくあります.
どちらのテクニックも代償動作を誘発するほどの強い収縮を促すとより良い弛緩を得られにくだけでなく疼痛を誘発しやすいため注意が必要です.
どちらも収縮後の弛緩を利用するため呼吸と合わせることで弛緩を誘導しやすくなります.呼吸は吸気に対して力が入り,呼気で力が抜けるため吸気で収縮を促し,呼気でリラックスさせ弛緩させると効果的です.
ホールドリラックス,コントラクトリラックスの方法
ホールドリラックスの実際の方法は
①セラピストは関節を可能な運動範囲の最終域まで他動で動かす.
②クライアントに等尺性収縮を促しセラピストはそれに対して抵抗を加え数秒保持させる.
③クライアントは②の位置でリラックスし筋を弛緩させる.
④筋の弛みを感じたらセラピストは他動的にストレッチを加え新たな運動範囲の最終域まで動かす.
⑤新たな運動範囲の最終域から等尺性収縮を加え保持,その後筋を弛緩させ,また新たな運動範囲の最終域までストレッチを加えていく.これを繰り返していく.
コントラクトリラックスの場合は,②でセラピスト側は抵抗を加えるのに対して,クライアントは等張性収縮にて保持するような形になります.他の手順は変わりありません.
掛け声としては,ホールドリラックスの場合は「力をいれてください.」と自己にて収縮を促すのに対して,コントラクトリラックスの場合は「止めててください.」とセラピスト側の抵抗量に対してクライアントは保持する形となります.
そのため傍からみると,変わりないように見えますが,疼痛状況や,クライアントの収縮する恐怖心等でどちらを選択するか考える必要があります.
まとめ
ホールドリラックス,コントラクトリラックスとは,どちらも筋の収縮後の弛緩を利用して可動域拡大,リラクゼーションを図る手技となります.ホールドリラックスは能動的に収縮を促すため疼痛,恐怖心のあるクライアントに適した手技,コントラクトリラックスは受動的にセラピストがクライアントの収縮を促すためより強く収縮を促し,その後の弛緩を得たいクライアントに対して適した手技になります.
クライアントに合わせて選択することでより効果的な治療となると思います.是非試してみてください.