物体を動かすにはこの質量中心点の考え方が非常に重要になってきます.
この考え方がない状態で患者を動かそうとすると患者は変に力が入ってしまい,
治療効果が得られにくくなります.またメカニカルストレスを与えてしまい,
かえって悪くしてしまう恐れがあります.
質量中心点とは
質量中心点とは,字のごとく物体における質量の中心に位置する点です.
例えば物体の質量中心点を押した場合に物体はどうなるでしょうか.
物体はそのまま「移動」します.
では,質量中心点以外を押した場合はどうなるでしょうか
物体は移動せずに「回転」します.
物体を動かすときはこの「移動」と「回転」が働きます.どちらか一方ではなく両方
働くことももちろんあります.
質量中心点を考えての治療
物体を動かす際には「移動」と「回転」が働くことがわかりました.では,人の身体を動かすと
どうなるでしょうか.私たちセラピストは人の身体を動かすことが多いと思いますが,人も物体
と考えたときにどうなるでしょうか.
上記の絵では,大腿遠位を把持して持ち上げています.
大腿部を一つの物体と考えた場合,質量中心点が上記の赤丸になります.
セラピストは質量中心点より外れて動かしているため,物体には「回転」が働きます.
股関節に注目すると股関節内側へメカニカルストレスが加わっていると想像がつきます.
では,質量中心点を把持して動かした場合を考えてみましょう.
物体は回転せずに,質量中心点が「移動」するのが分かります.
股関節もメカニカルストレスが加わることが少なく患者への負担も少なくなります.
上記の絵のような運動だけでなく,どの関節のどの運動でも質量中心点以外を把持
した状態で運動すると基本的には関節へのメカニカルストレスが加わります.
例えば,患者が動かそうとするときに,力が入ってしまうことがよくあると思います.
人は関節の位置がズレた際に脱臼しないようにあるいは疼痛がでないように力が入ります.
もしかすると,私たちセラピストが質量中心点以外を把持して動かすことで関節への
メカニカルストレスを加えて,力が入ってしまうケースも多いのではないでしょうか.
患者が余計な力が入って治療効果が得られないケースを他の記事でも紹介していますので
ご参照ください.
まとめ
質量中心点を意識して身体を動かすことで,物体の「回転」運動がなくなり,関節のメカニカル
ストレスが減ります.メカニカルストレスが減ることで,患者も余計な力が入らず治療効果も
得られやすいのではないでしょうか.臨床に生かしてみてください.