「あなたは協調性がありますか?」
「はい.」と答えた方も多いのではないかと思いますが,では協調性とはなんでしょうか?
この質問に対してあなたはちゃんと答えられますか?
協調性とは
協調性とは,普段から会話でも用いられるぐらい馴染みがあるかと思います.多くの人はどんな人に対しても合わせて対応できる能力と思うのではないでしょうか.もちろんほぼ正解なのですが若干異なります.
一般的な協調性とは,異なった環境や立場に存する複数の者が互いに助け合ったり譲り合ったりしながら同じ目標に向かって任務を遂行する素質のことを指します.
つまり,同じ目標,目的に向かっていることが条件になるのです.ただ単純に誰とでも仲良く会話できるスキルというわけではなく,協調性とは同じ目的とする最終ゴールに向かって,問題点を解決するために様々な人と議論し協力し合うことができる能力のことを指しているのです.
同じ目的,目標を目指している場合と,そうでない場合とでは大して変わらないのではないかと思うかもしれませんが,そんなことありません.
目的や目標がある場合は,必ず確固たる意志が存在しそれに対して行動を起こしています.甲子園に出場するために,素振りを毎日500回やる.仕事でお金を稼ぐために知識を深めるなど.
ただ,この目標に対しての考え方は多種多様に存在するため,それに対する行動も無限と存在することになります.甲子園を例にしてみると,ある人は甲子園に行くためには筋力が必要だと考え腕立てをする.ある人は走力が重要だから走りこむ.またある人は戦術が必要だから本を読むなど...目標は同じだとしても,その目標に対しての考え方,行動は複数みられます.
逆に目的のない何気ない会話などは,自分の思いは存在こそしますが,そこに確固たる意志は必要ありません.そのため多くの人は価値観が合わなかったとしても,取り繕って会話することでその場をやり過ごそうと思います.これは決して協調性があるとは言えないのです.
しかし目的がある場合は,互いに譲れないことがあります.それでも相手の意見を尊重し,時には相反する意見を述べなければならないこともあります.それも相手に不快に感じさせないで話す,そう言った能力が必要になるのです.
つまり協調性とは,目標に向かっている強い意志をもった様々な考え方を持った人達に対して適応できるかどうかを説いています.この適応力が必要となってくるのです.
ではセラピストが治療で用いる協調性とはどういった意味合いがあるのでしょうか.
治療で用いられる協調性とは
先ほどもお伝えましたが,協調性とはある目的に対して適応する力です.仕事などの社会一般的には人に対して適応できることです.ではリハビリでの協調性とはどんな目的に対して適応できる力なのでしょうか.
クライアントの目的とはトイレに歩いていけるようになりたいや,仕事に復帰したいなど日常生活をより豊かにすることを目指します.その日常生活を生きていくための身体が環境に対して適応する力が求められてきます.
つまりリハビリでクライアントの協調性をみるのは,環境に適応できる力をみています.
では環境に適応する力とはどういったものをみなければならないのでしょうか.
答えは3つあり量的要素,時間的要素,空間的要素をみる必要があります.
量的要素
量的要素とはある動作に対して適正な量の筋収縮を行う能力です.50%の筋収縮が必要な動作に対して90%過剰収縮してしまう場合,あるいは30%しか出力しない場合は環境に適応することができません.整地,砂利道,坂道など環境に応じて筋収縮量を変えていかなくてはなります.坂道では重力に抗して昇って行かなくてはならないため,抗重力筋の筋活動の量を増やさなければ転げ落ちてしまいます.
また荷物を持つ際にその物体の重さに対して対応できる筋活動を行わないと荷物を持つことができなくなります.このように環境に対して適切な量の筋活動を行う量的要素は適応するためには必要不可欠なのです.
時間的要素
適正な量の筋活動は行うことができるだけでは環境には適応できず,時間的要素が必要となります.時間的要素とは筋収縮の反応時間であり,適正なタイミングで筋収縮を行うことです.
歩行は絶えず歩行周期に応じて筋活動を変えることでエネルギー効率を良くし長い時間歩行することを可能にしており,歩行周期に数コンマの遅れもなくタイミングよく筋収縮を行っているのです.例えばMst時に中殿筋の活動が遅れた場合トレンデレンブルグ歩行となり,エネルギー効率が悪くなるだけでなく二次的な障害にも直結します.
ジャンプをイメージするとわかりやすいですが,ジャンプをする際にそのタイミングで筋活動が起こらなければ高くジャンプすることができません.例え筋量があったとしてもタイミングが合わなければ全く無意味と化してしまうのです.日常生活に落とし込むと,水溜まりを避けるためにジャンプする動作,浴槽を跨ぐ動作,立ち上がり,寝返りとどの動作でも適正なタイミングで筋収縮が行えないとその動作が困難となります.時間的要素もまた環境の適応に必要となるのです.
空間的要素
最後に空間的要素ですが,これは筋の組み合わせです.先ほどのようにジャンプを例にしてみてみると,ジャンプをするためには重力に抗う必要なため大殿筋や,大腿四頭筋,下腿三頭筋など抗重力筋の筋活動が必要となります.
このようにある動作を行うときには複数の筋の組み合わせで成り立っています.単関節運動でみても膝関節伸展運動は内側広筋,外側広筋,大腿直筋,中間広筋の複数の筋の組み合わせであるだけでなく,ハムストリングスなどの拮抗筋の弛緩も必要となります.
筋の組み合わせは無限大に存在しますが,おおよそカテゴリーで分けた場合
①主動作筋と共同筋の収縮
②主動作筋の収縮と拮抗筋の弛緩
③中枢部の安定と末梢部の運動
④末梢部の安定と中枢部の運動
⑤筋の収縮様式
が考えられます.この⑤項目の詳細については省きますが,この⑤項目どれかひとつでもできていないと円滑に動作をすることが困難となります.
まとめ
私たちセラピストが使用している協調性とは日常生活を生き抜くために身体が環境に対して適応できるかをみています.その適応するためには,筋の適切な量,タイミング,組み合わせが必要であり評価することでその人の協調性を診ることができます.
ダーウィンは『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。』と説いています.人や環境,時代に対して適応していく力がどんな人でも必要なのかもしれません.是非ご参考にしてみてください.