セラピストは外傷による疼痛,炎症による疼痛,メカニカルストレスによる疼痛など身体上の痛みに対してフォーカスを当てることが多いと思います.その反面精神的な疼痛に対して見過ごしてしまうことがあります.
うつ傾向のクライアントは動作が一定せずに運動習熟に時間を要すと言われています.精神的な状態を理解することは,その後の治療効率だけでなく社会参加にも直結する問題です.本日はスピリチュアルペインについて解説していきます.
スピリチュアルペインとは
身体の痛みをフィジカルペインと呼ぶのに対して,精神的な心の痛みをスピリチュアルペインと呼びます.フィジカルペインは症状として表出されますが,スピリチュアルペインは見た目には表れにくいため見逃されてしまいます.そのため私たちセラピストは注意深く観察することは勿論のこと私たち自身の何気ない一言で悲しみや苦しみなどスピリティアルペインを与えてしまわないよう注意を払う必要があります.
スピリチュアルペインは大きく3つに分かれており,理解し一つ一つの言葉に気を付けることでクライアントに苦しみを与えることなく治療ができ,且つクライアント自身が障害に対して向き合い未来を見据えることができるのです.
①時間存在の損失による苦しみ
時間存在の損失による苦しみとは将来や夢を失うことへの苦しみであり,入院している患者では「仕事に復帰したい」「退院して家でテレビをみたい」など未来への希望を抱きますが,その希望に対して失ったときに苦しみを感じます.私たちセラピストはその希望に対して心無い一言で気づかないうちに「残念ですが,○○をすることは難しいです」,「〇〇をしても仕方がないです」など時間存在の損失による苦しみを与えている可能性があります.
そうした言葉かけには注意する必要がありますが,どう治療しても改善の見込みが少なく希望が叶わない人も必ず存在します.元々出来ていたことができなくなるのは誰にだって起こりうることです.しかし私たちは「〇〇はできないです」と苦しみを与えるのではなく,現状を本人に受け入れてもらい新しい未来を作り上げていく.クライアント自身が出来うる未来を一緒に考え構築し自身が実現可能な新しく「○○ができるようになりたい」と思わせることが必要かと思います.
②自律存在の損失による苦しみ
自律存在の損失による苦しみ決定権が奪われ,自分自身では決めることを奪われる苦しみです.「○○をしなさい.」「〇〇であるべきだ」のように第3者が決めつけることでクライアント自身が決めることができなくなり自律存在の損失し苦しみを与える可能性があります.
私たちは気を付けていても例えば「あなたは歩くことが難しくなってきたけど車椅子なら生活できるから車椅子を漕ぐ練習をしましょう」など良かれと思って言った一言でも,クライアントから決定権を奪い傷つけている可能性があります.私たちセラピストはクライアントに決めてもらうよう選択肢を提示したり,誘導して自身の言葉で発し自身で未来を決めることが必要かと思います.
③関係存在の損失による苦しみ
関係存在の損失による苦しみとは一人ぼっちの苦しみであり,社会との関係が失われてしまう苦しみです.病気を患った人は今までの友人との関係が消失してしまう恐怖心など特に孤独を感じることが多くあります.私たちセラピストは「あなたと出会えてよかった」など一人ではない繋がりを感じさせることも大切であると考えます.また機能改善だけでなく,関係性を築けるよう社会参加も後押しする必要があります.
まとめ
私たちセラピストはクライアントに対して未来を絶つのではなく,新しい未来を受け入れるサポートをする必要があります.また私たちが決めるのではなく,クライアント本人に決定権があることを忘れてはいけません.ご自身で受け入れご自身で新しい未来を決める.その中に私たちは関係し人との結びつきを促す必要があるのではないでしょうか.
これは病気をした人だけではなく,子供に対しての扱いも同様であると考えます.しかし親は親自身が子の将来を決定付け,勉強を押し付け友人関係を絶つなど苦しみを与えている人は意外と多いのではないでしょうか.クライアントだけでなくどの人に対してもスピリチュアルペインを意識して対応する必要があるかと思います.是非参考にしてみてください.